この照らす日月の下は……
09
「どこに雲隠れしておったのか」
リビングに顔を出した瞬間、ミナがそう言ってくる。
「姉上がカナードをおいてきたからの。キラの相手をするものがいなかったではないか」
だから自分がその役目を担っていたのだ。ギナはしれっとした口調でそう言う。
「……あぁ、その役目があったか」
ミナがその言葉と共に苦笑を浮かべる。
「ならば、あれには良いお仕置きになったな」
さらに彼女はそう付け加えた。
「カナード兄さん、何をしたの?」
ここまでミナを怒らせるとは、とキラは自分を抱き上げているムウへと問いかけた。
「聞かない方がいいぞ」
「確かにの。あれにしてみれば、お前にだけは知られたくないだろう」
ムウだけではなくミナにまでこう言われてはそれ以上問いかけるのははばかられる。
それに、だ。
「キラも来たのね。なら、おやつにしましょう」
カリダがそう口にしながらキッチンへ向かう。そのことの方に意識が向いたのだ。
「おやつ!」
確か、朝からケーキを焼いていたはず。母の作ってくれるケーキがキラは大好きなのだ。
「やはりキラは可愛いの」
そんなキラの様子に三人は目を細める。
「たくさん食べて大きくなれよ」
ソファーに腰を下ろしながらムウが言う。
「だが、あまり大きくなってくれるな。抱き上げられなくなる」
「そうだな。腕の中に収まるくらいがちょうど良い」
サハクの双子は己の希望を素直に口にする。
「お前らなぁ。もう少し遠回しに言えよ。ここならばいいけど、セイランに聞かれたらまずいだろう?」
「安心するがよい。我らとてTPOはわきまえておる」
ミナがそう言って笑う。
「ここだからこそ気が緩むのだろうな」
「確かに。ここは我らにとっても気を抜ける数少ない場所故」
「それは否定しないな」
ムウも彼等の言葉に納得できたのか。そう言ってうなずいている。
「まぁ、それは我らの都合よ。キラには関係ないことだな」
ギナがそう言いながらキラの髪をなでてきた。
「確かにな。キラがもう少し大きくなるまでは知らずとも良いことだ」
反対側からミナもキラの頬をなでてくる。
「くすぐったいです」
それにキラはこう告げた。
「そう言うキラはすべすべだな」
ミナはそう言って笑う。
「あらあら。仲良しさんね」
お盆を手に戻ってきたカリダが柔らかな声でそう言った。
「僕、お手伝いする」
そう言うとキラはムウの膝の上から降りる。ムウもあえてそれを邪魔しようとはしなかった。
「それじゃ、皆さんにフォークを渡してね」
「うん」
しっかりうなずくとキラはリビングに置かれてあるカップボードからデザートフォークを取り出す。そしてそれぞれの前においていく。
カリダも彼等の前にケーキをのせたお皿とコーヒーのカップを差し出した。
「キラはミルクね」
「はーい」
コーヒーは苦いから苦手だ。しかし、いつか彼等みたいに平然と飲めるようになるのだろうか。キラはそんなことを考えながらいすに腰を下ろした。